【感想】Mr.マロウブルー

本屋さんをブラついてたら見つけたので買ってみました。


学生時代イジメにあい引きこもり生活をしていた27才男性・蒼井が自殺をしようとしたら同じく自殺?をしようとしていた女子高生・桜と入れ替わってしまうというお話です。

絵がとってもきれいなのは勿論ですが、話の運びが予想つかなくてドキドキする!

かつて学校内でイジメにあっていた蒼井が現在全く同じ環境にある桜と入れ替わってしまう、というのは基本「君の名は。」の男女とりかえばや的な感じなのですが、過去やったことがある(知っている)危機的な状況を違う身体でやり直すという面は「異世界転生」に通じるものがあります。


学生時代に受けたイジメのトラウマで引きこもりになってしまった蒼井は、20才で親元を離れたもののやはりほぼ引きこもりの生活が続いていて、大家さんの善意でたまに事務仕事を請け負う以外は近所のコンビニまでしか行ったことが無いような生活をしています。

「いつかここから抜け出せる日が来る」

そう思って縋るように慎まやかにドツボにハマった暮らしていますが、ある日コンビニである男に遭遇してしまいます。

学生時代蒼井に声を掛けて友達になってくれた、しかしその実は自分がイジメ対象から抜け出すため身代わりとして蒼井に目を付けて見捨てた男です。

男は過去に囚われたままの蒼井を嘲笑し、蒼井が怒ると「今お前がそうなってるのは俺のせいじゃない。全部お前自身の問題だろ」と吐き捨てて去ります。(単純にクソヤローですね。地獄に堕ちよ)

ずっと細い糸で日々の精神を保っていた蒼井はこの出来事でぶっつりと切れてしまいました。

絶望で意識もうろうとしたまま家に帰り、勢いのまま傍にあった鋏で腹を刺し自殺を図ります。

が、死んだと思ったのもつかの間、気付くと目の前には謎の美少年が。そして鏡を見ると女子高生が。

なんじゃこりゃー!?

導入はこんな感じのストーリーです。


わけもわからずいきなり体が女子高生(精神は27才ほぼ引きニート男性)になってしまった蒼井をサポートしてくれる水無月という男子高生が出てきます(前述の謎の美少年です)が、これもまた闇が深そう。

水無月は友達が多く気さくで優しい男子高生ですが、彼には自身を含め人の顔が全員仮面を被っているように見え、実のところ顔では誰が誰かの区別がついていないという秘密があります。(現時点では先天的なものというより後天的なものと思われる?)

なので誰かはわからないけどとりあえず体型、声、喋り方や髪形、「顔」以外の特徴で誰かを判断し接しているような状態。なのに友達が多いとかどんだけコミュ強なんだ…?

水無月には皆同じ顔に見えますが、喜怒哀楽の感情はわかるらしく、その中でも桜は常に「怒っている」ということで水無月の印象に残っていました。

いつも怒っていると言われる桜は、とても整った顔立ちをしていますが紫に染めた髪に隈のある目、黒く染めた爪、リボンで隠したリスカ痕のある手首など尖っている系女子の雰囲気がビンビン。

クラス内でも孤立していて女子内ではがっつりイジメも受けています。

かつての蒼井とよく似た環境にいる彼女ですが、桜の方が万倍も攻撃的で、SNSで知り合ったらしき友人(実は桜の同クラスの男。知らない人のフリをして桜を助けるような発言をしつつ陰でその姿をあざ笑ってる)にイジメっこたちを殺したいと相談したりしています。

ここら辺の流れや描き方は現代に即してるのと、思春期独特の刹那的で爆発的な感情がすごくよく表現されてて不思議なリアリティを感じました。

近くにいる学校の相談員よりSNSで知り合った顔も知らない人にドロドロした感情を打ち明けやすいこと、イジメられた時に感じる情は悲しい辛いだけではなく復讐したいという強い怒りや憎しみが実は大きいこと、衝動で命を絶とうとするところ。

桜はイジメを受けている時に何度か水無月に助けられますがそんな彼にも桜は怒りを向けます。

「あんたはいいよね、努力しないで誰からも好かれてて。何も悩みが無いって顔して。さぞや生きるのが楽しいんでしょうね」

…うーん、大概の人はその言葉、地雷だと思うぞ…地雷女的に描かれてるから合ってるのか。

そして「私と入れ替わってよ」と言って階段から飛び降ります。

下に水無月がいるのに(というかいたからこそ?)そういうことするあたりめちゃめちゃ刹那的ですね。さすが地雷疑惑女…。そして導入部最終に戻ります。


精神が入れ替わってしまった桜(in蒼井)を見て水無月はびっくりします。「顔が見える」と。

何故なのかは不明ですが水無月は桜(精神は蒼井)の顔だけははっきりと認識できるようになっていました。

右も左もわからない、おまけにトラウマ刺激をしてくるような環境にある女性の体と入れ替わってしまってオロオロする蒼井を水無月は助けることに。

とは言いつつなかなか人を頼ることができない蒼井ですが、寮から締め出されたり、締め出された先で校内の不良に遭遇したり、不良から助けてくれたと思った男はかつて自分を見捨てたあの男そっくりの目をしてて信用ならん!と逃げ出したりと災難盛りだくさんな目に合い、水無月に「助けて欲しい」と言うことになります。

助けに来てくれたことにほっとして「男で、もう大人なのにこんなことで泣くなんて情けない」と言う蒼井に「性別も年齢も関係なく、辛いことは辛いです」と言う水無月月、現代の倫理観を感じる…。

「あの時『助けて』と言えたら何か変わっていたのだろうか」と蒼井が考える部分がありますが、助けて、って発信するのってすごく気力体力使うんですよね。

1回発するのが限界になるくらいなほど追い詰められた時にようやく「助けて」って言える人が多いんじゃないかな。でもそれだと届かない時も多いんですよね。

「助けて」が受取ってもらえなかった時の失望感って凄まじいし、たった1回でと言うけどその1回に残った全てを賭けてしまってる人にとってはまさに命の紐を切られるに等しいものだと思います。

だから敢えて「助けて」を言わない選択をしてしまうこともあるような。泥沼…。

理想としてはまだ気力体力に余裕のある時に「助けて」って言うか、何度も諦めずに「助けて」って言うかできればいいんですけど、それができたら今ここにいね~~~よ!って感じの人が追いつめられるので難しいなぁ。

でも確かに、言わないよりは言った方が何か変化がおきるので、蒼井の振り返りは間違って無いし、過去と似たシチュエーションで今度は水無月に助けて貰った体験をできたからこその顧みだなぁと思います。


蒼井(身体:桜)のほにゃっとした笑顔にトゥンク…する水無月、はお約束でしたが、不躾な話これBL路線になるのか?NL路線になるのか?それともそういうカテゴリ無しで敢えて進むのか?と思いました。

そこ含めて現代的な感覚で描かれてる作品かもしれない。


で、蒼井と入れ替わった桜の方ですが2巻からの本格始動となるみたいです。

自分で髪切って特定される前にさっさと引っ越しもして、と行動力が蒼井よりも大分あるな…学校職員になりすまして校内に潜入し桜(蒼井)の動向を探ろうとしてるあたり蒼井の体を使って何かやらかそうとしてる気配がすごい。


巻末に作者さんのあとがきと初期設定ラフなどが載っていました。「最初は明るいラブコメ」を目指していたらしいです。マジか。

今後は段々明るくなっていくそうで、おお…楽しみ…3人含め色々と変わっていくと思いますが自分は桜がどうなるか気になるなー本当予想がつかないので。

桜のことをイジメている、どうやら幼馴染らしき黒髪おかっぱ悪女も気になります。

イジメ - イジメられの関係は、昨今では二次元の話であっても「実は好きだったから」「ささいなすれ違いで」「ツンデレで」では済まされないテーマとして描かれているなと思うので、どう現在進行形で起きてるこの桜の関係を畳むのか興味がある。


今から2巻が楽しみだ~期待!



0コメント

  • 1000 / 1000